大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(行ツ)24号 判決

上告人 株式会社丸菱商会

被上告人 長崎税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外一名

主文

原判決中左記部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消す。

被上告人が上告人に対し昭和三八年八月三一日付でした上告人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度の欠損金額を三〇三万一九二一円とする法人税の更正処分中、被上告人が昭和四四年五月二三日付でした上告人の右事業年度の欠損金額を三四五万六九二一円とする法人税の減額再更正処分によつて取り消された部分の取消請求に関する部分

右部分につき本件訴えを却下する。

その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。

第一項記載の部分に関する各審における訴訟の総費用および第三項記載の部分に関する上告費費はいずれも上告人の負担とする。

理由

上告代理人神代宗衛の上告理由一について。

本件において、上告人は、被上告人税務署長が上告人に対し昭和三八年八月三一日付をもつてした昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度分の法人税に関する更正の取消しを求めるものであるところ、所論は、右更正中上告会社取締役小野健子外二名に対する役員賞与金四二万五〇〇〇円の損金算入を否認した部分につき、原判決には、旧法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号)一〇条の三第六項四号の解釈を誤つた違法があるというのである。

職権をもつて調査するに、右更正中所論の役員賞与金の損金算入を否認した部分は、被上告人が昭和四四年五月二三日付をもつて行つた上告人の前記事業年度分の欠損金額を三四五万六九二一円とする法人税の減額再更正処分により、取り消され、所論の賞与金が損金に算入されることとなつたことは記録上明らかであるから、上告人の本件訴えは、右更正中すでに取り消された部分の取消しを求める部分については、その法律上の利益を失うに至つたものというべく、却下すべきものである。それ故、原判決および第一審判決中、右部分に関して本案につき判断を与えた部分は、破棄、取消しを免れない。

同二について。

所論の点に関する原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定判断は、挙示の証拠に照らし、是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう原審の専権に属する証拠の採否ないし事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九五条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 下田武三)

上告理由

一、役員賞与合計金四二五、〇〇〇円否認について

(一) 原判決は、その理由において「法人税法施行規則第一〇条の三第六項第四号の法人税法上の同族会社の役員に該当する者は、その者が事実上使用人であると否とを問わずまたその者が株主であると否とにかかわりなく同法上の「使用人としての職務を有する役員」には該当せず、その者に対して支給された賞与は、前記規則第一〇条の四によりその損金計上を否認され、益金として所得に加算されなければならないものと解すべきものである。」というのである。しかしながら前記規則第一〇条の三第六項第四号に規定する同族関係者とは、法第七条の二第一項第一号に規定する株主三人以下の同族関係者に限定されておる。即ち株式を有する同族関係者であることを要件とするものと解釈すべきものと思料する。そこで昭和三七事業年度(自昭和三七年四月一日、至昭和三八年三月三一日)末における控訴人会社の株主は九人であつたが〈証拠省略〉次記のとおり株式贈与を取消したので五人となつたが前記法第七条の二第一項第一号には該当しない。

原審判決は、会社が同族会社であるかどうかを判定する場合と、ここにいう使用人としての職務を有する役員になれない者を判定するにつき法律はその取扱いを異にしておるのにこれを混同しているものと思われる。

即ち前記法第七条の二第二号乃至第三号は、株主四人又は五人の同族関係者である場合は「使用人としての職務を有する役員」に該当することを明かにしており且つこの場合は同族関係者が株主であることが重要な要件である。

さればこそ福岡国税局長鈴木喜治裁決書〈証拠省略〉によれば「小野健子外二名は法人税法施行規則第一〇条の三第〈6〉項の四の規定により同族会社の判定の基礎となる株主であるため使用人としての職務を有する役員とは認められない」と記載し株主であるがゆえに使用人としての職務を有する役員とは認められないということであつた。斯くては控訴人会社の経理上不利益であるから小野信夫は自己名義の株式の受贈者右三名に対し昭和三八年三月三一日に遡り贈与の取消をなし受贈者もそれぞれ直ちに了承した。ついては課税前の贈与の取消は贈与の日に遡及して贈与がなかつたことになるのであるから当該事業年度末に遡つて小野健子外三名へ先に無償譲渡した小野信夫名義株式は、課税上からは右三名は株主でないことに取扱われる筋合である従つて本件更正決定は取消さるべきである。

尚、規則第一〇条の三の第五項「この節に於て役員とは法人の取締役、監査役、理事、監事、清算人その他使用人以外の者で法人の経営に従事しているものをいう」同条三の第六項「この節に於て使用人としての職務を有する役員とは次に掲げる役員以外の役員で、部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事するものをいう」と規定し、規則第一〇条の四に於て「法人が各事業年度に於てその役員に対して支給した賞与の額は当該事業年度の所得の計算上これを損金に算入しない、ただし当該法人がその使用人としての職務を有する役員に対し当該職務に対する賞与を使用人に対する賞与の支給時期に支給した場合に於てこれを損金として経理したときは当該賞与の額のうち当該法人の他の使用人に対する賞与の支給の状況等に照し当該職務に対する賞与として相当であると認められる金額についてはこの限りではない」と規定しておるのであるから法人税法は役員であり且つ使用人である者を認めておるのであるから原判決の如く直に使用人であると株主であるとを問わず使用人としての職務を有する役員とは認められないと断定することは違法であるのみならず岩下幸生、西川倫治、小野健子三名は共に上告人会社の役員兼使用人であつてその職務は岩下幸生は営業部長、西川倫治は小曾根工場長、小野健子は現金出納係長とし勤務しており使用人としての仕事が会社に於ける主なる職務であり役員は単なる名称に過ぎないのである、従つて被上告人は拾数年間此の事実を認め同人等に対する賞与については損金計上を認めておつたのである。

上告人会社の自昭和三七年四月一日、至昭和三八年三月三一日事業年度における同人等に対する賞与は合計金四二五、〇〇〇円の外には他に金員を支給した事実はないのであるからその名目の如何に拘らず須く規則第一〇条の四のただし書を適用し損益関係を明かにすることが相当である。

若し被上告人がこの措置に出たとすれば右訴外人三名に対する賞与は決して他の同種の会社に比して多きに失することはないのであるから被上告人のなした昭和三八年八月三一日付法第四六八号による更正は取消されるべきものと思料する。

(二) 同族関係者が使用人としての職務を有する役員に該当しないという趣旨は究極のところその行為又は計算に於て法人税が不当に減少されるという趣旨に基くものと思われるのであるが上告人は右三名については昭和二六年乃至同三〇年以降実質的に会社の経営に参加するものではなくそれぞれ入社以来職務の内容が全く使用人としてのものであるという事実判断に基いて右三名の賞与は賃金として損金処理を認めて来たのであつて法人税が不当に減少した事実は起らないし全くそのような事実はない。且又労働の対価である賃金であるとして永年被上告人から認められて来た事実が同族関係者であるという一事をもつて一朝にして事実を曲げて即ち賃金にあらずとして否認することは法律上からも疑義の存するところである。

原判決は被上告人の従来の措置は錯誤に基くものというのであるがそれは適法の措置というべきである。

二、監査役の報酬合計金六〇、〇〇〇円の否認について

会社の大小及び其業態により常任監査役と非常勤監査役を併置し、或は其一方だけに止むる場合がある其員数も一人若くは数人が選任されておる常任監査役は常時出勤して会社の会計上の監査をなし非常勤監査役は出勤日数は少ないが何れの監査役も結局に於ては株主総会前に取締役より提出する貸借対照表、営業報告書、損益計算書等決算書類につきそれが正確であるか否かにつき帳簿、其他の証拠資料に基き監査を行い株主総会に監査報告をなすことが主なる職責である、現行法では監査役は業務監査の権限はなく主として会計監査をすることが其職責である、小企業の会社に於ては営業状態にもよるが常任監査役制をとると常時出勤のために報酬金額も非常勤の場合に比して其給与率が高くなるので非常勤の監査役を選任することが多く上告人会社の場合もこれにならつたものである。然しながら其場合と雖も一ヶ月毎に若くは一ヶ年毎に幾何かの報酬を支払うことは世間一般の事例であり無報酬であることは寧ろ異例というべきである、従つて上告人会社に於て小野喜三郎が福岡大学在学中だつたからといつて監査役の職責を尽さなかつたということは云えないのである、原判決は上告人会社が昭和三七年四月一日から同三八年三月三一日までの事業年度においては法人税法上の同族会社の代表取締役小野信夫の四男であること〈以下省略〉前記小野喜三郎が監査役就任当時は弱冠満二十才程度で福岡大学遊学中の身であつたこと、これに対し前任の監査役小曾根均はその死亡当時五十才年輩のものであつたこと、そして右小野喜三郎は前記のとおり四男にすぎなかつたのに対し父母以外の親族にある上告人会社の前記取締役二名も監役査であつた小野喜三郎よりは同人のいわゆる伯父または叔母の夫としてはるかに年輩であつたこと、しかも前記小野信夫は当時上告人会社に於ては事実上もほとんど独裁的な立場にあつたこと、以上のとおりであつて前記事業年度中に右小野喜三郎が進んで上告人会社の監査役として任務をその職務の性質にそつて遂行した事跡は見当らないことをそれぞれ認むることができると認定した。

然し乍ら監査役は取締役と同様株主総会に於て選任されるものであり年齢の差、代表者との親族関係、その他前記認定の如き事実があつたとしても監査役の職務遂行には、何等の支障はない且、又法律も右の如き事実があつた場合、監査役の選任を除外するという禁止規定は存在しない。

税務官庁は各事業年度の法人税徴収のために数日に亘り会社に臨み会計帳簿其他につき詳細な調査を行うのであつて監査役の監査が正確であるか否かについては容易に之を発見することができるのである、取締役と監査役とが如何なる身分関係にあるにせよ、又代表取締役が独裁的であろうと否とを問わず経理の算定はこれを曲ぐることは出来ないのである。

原判決は理由にならない理由を以て本件を判断した失当がある。特に原判決は小野喜三郎は当時弱冠満二十才で遊学中云々と説示し監査役の職責を遂行しなかつたというのであるが満二十才に達すれば成人であり社会人としても充分の能力を有することは法律の明定するところであり憲法はすべて国民は法の下に平等であり人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的、社会的関係に於て差別されないと規定しておる。小野喜三郎は学歴に見るも当時福岡大学二学年在学中でありその専門科目は商業科であり成績は優、良が多く商業知識特に会計に関する簿記学、経営学には優の成績を示しており小企業の上告人の監査役として十分に其責務を果す能力が証明されるのである。〈証拠省略〉

監査役は株式会社の法的機関であつて法律に定むる重要な権利と義務を有するのである。原判決は小野喜三郎が適法に監査役に選出された事実を認めておるのであるから同監査役に対し多かれ少かれ報酬を支払うことは当然であつて報酬を支払はないことがあるとすればそれは寧ろ異例であつて被上告人が全然報酬を損金に計上することを認めないことは会社の自治権を侵害するものと思う、原判決は小野喜三郎が監査役の職責を果したか否かにつき疑問があるとして同人は牧村兵太郎、觜本富三がいずれも上告人会社の取締役である事実さえ知らないし上告人会社の業態はもとより会計監査上上告人会社が如何なる問題点を包含する株式会社かさえも弁えていない状況であつたというのであるが、牧村、觜本両取締役は小野喜三郎が監査役就任当時は嘗て取締役会に出席したことはなく全然報酬等も支払つておらず有名無実の存在に過ぎなかつた関係でその氏名を知らなかつたものであるがその他の事実に就いても就任早々のことであり人間万事一から十まで総てのことを知り得ることは至難なことであつて時の経過によりこれらのことは自然に知り得べき事柄である、然しこれらの事実を就任後僅かの期間中に知らなかつたとするもこれを以て直ちに監査の責任を果さなかつたということはできない、原判決は小野喜三郎を監査役に選任した事は上告人会社の代表者小野信夫の個人経営にもほぼ等しい同族会社なればこそなし得たことであつて一般非同族会社では容易に見られぬ異例の現象だというのであるが該認定のとおりであつたとしてもそれは違法ではなく監査役の職務を果し得ないという理由にはならないのである、要するに原判決が小野喜三郎が監査役としての責任を果さなかつたという事実の認定は単なる想像と推定に基くもので、適確なる証拠によるものではない。

叙上の次第であるから原判決を破棄し相当の御裁判あらんことを求める。

以上

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